慌ただしい病棟の一日を追いながら、誰かを気遣う小さな行為の重さを静かに感じる映画でした。
作品情報
タイトル:ナースコール
原題または英題:Late Shift
監督:ペトラ・フォルペ
製作:レト・シャールリ、ルーカス・ホビ
脚本:ペトラ・フォルペ
主なキャスト:レオニー・ベネシュ、ソニア・リーゼン ほか
上映時間:92分
劇場公開日:2026年3月6日
オフィシャルサイト:https://nursecall-movie.com/
あらすじ
スイスの州立病院の外科病棟。遅番勤務に入った看護師フロリアは、人手不足の中で多くの患者を担当することになる。
次々と鳴るナースコールや電話、患者のケア、看護学生の指導――慌ただしい病棟の一日を通して、彼女が直面する現実と感情の揺れが静かに描かれていく。
ドキュメンタリーのような病棟の一日
舞台はスイスの州立病院。
外科病棟で働く看護師フロリアの遅番勤務の一日が描かれます。
満床の病棟では、ナースコールが鳴り、処置が続き、患者のケアが次々と重なっていきます。
その慌ただしさは、まるでドキュメンタリーを見ているようなリアリティがあります。
カメラは派手な演出をほとんど使わず、廊下を行き来する足音や、器具の小さな音、ナースコールなど、病院の空気そのものを丁寧に拾い上げていきます。
その静かな積み重ねが、観ている側をゆっくりと病棟の中へ引き込んでいきました。
フフロリアという看護師の静かな感情
フロリアを演じるレオニー・ベネシュの存在感がとても印象に残ります。
彼女は淡々と業務をこなします。
まるでロボットのように正確で、迷いがない。
けれど、その奥には確かな感情があります。
認知症の患者と歌を口ずさんだり、犬の写真を一緒に見たりする時間。
そんな何気ないやり取りの中に、彼女の優しさがにじみます。
一方で、自分の無力さに腹を立ててしまう瞬間もある。
感情がふと溢れる場面も、どこか自然に受け止められました。
人の命に向き合う仕事の重さが、静かな演技の中から伝わってきます。
窓を開けるという、静かな見送り
印象に残る場面のひとつに、ある患者が亡くなったあと、フロリアが病室の窓を開けるシーンがあります。
後から知ったのですが、ドイツ語圏の地域には、亡くなった人の魂が旅立つのを助けるために窓を開けるという風習があるそうです。
その背景を知ると、あの静かな行為が、亡くなった人への敬意や祈りのようにも感じられます。
そして、その意味を踏まえてラストシーンを思い返すと、バスの中で出会う女性のスカーフの柄が、少し違って見えてきます。
あの場面には、フロリアへの感謝やねぎらいのようなものが、そっと込められているようにも感じられました。
病棟で働く彼女を見守ってきた観客の気持ちも、あの瞬間に静かにほどけていくような感覚があります。
一日の終わりに残るもの
慌ただしい勤務が終わる頃、
フロリアの靴はすっかり汚れています。
新品だった靴が一日で傷ついていく様子は、過酷な仕事の証のようにも見えました。
けれど、それは同時に、その日一日、誰かのそばに立ち続けた証でもあるのかもしれません。
映画は大きな答えを提示するわけではありません。
ただ、誰かを支える仕事の重みを、静かに見せてくれます。
こんな人におすすめ
・静かな人間ドラマが好きな人
・医療現場をリアルに描いた作品に興味がある人
・派手な展開より、人物の感情を丁寧に描く映画が好きな人
・映像や音の空気感を味わうタイプの映画を観たい人
・観終わったあとに少し考える余白がある作品が好きな人
