美しい映像に身を預けながら、理想と現実の間で揺れ続ける心を、静かに見つめる時間でした。
作品情報
タイトル:機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女
監督:村瀬修功
原作:富野由悠季、矢立肇
脚本:むとうやすゆき
主なキャスト:小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬 ほか
上映時間:108分
劇場公開日:2026年1月30日
あらすじ
第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)から12年の宇宙世紀105年(U.C.0105)。
圧政を強いる地球連邦政府に対し政府閣僚の暗殺という方法で抵抗を開始した「マフティー」。そのリーダーの正体は、一年戦争をアムロ・レイと共に戦ったブライトの息子、ハサウェイ・ノアであった。
不思議な力を示す少女ギギ・アンダルシアにかつてのトラウマを思い出すハサウェイ。彼女の言葉に翻弄されながらもマフティーとしての目的、アデレード会議襲撃の準備を進めるが……。
連邦軍のケネス・スレッグは自ら立案したアデレード会議の支掩作戦とマフティー殲滅の準備をする中、刑事警察機構のハンドリー・ヨクサンから密約を持ちかけられる。
そして、ハサウェイ、ケネス、それぞれが目的のために動く一方で、ギギもまた自分の役割のためにホンコンへと旅立つ。
映像が先に感情を連れていく
まず惹きつけられたのは、圧倒的に練られた映像の質感です。
自然の海や光、揺れるカーテンの布の動きまで、画面の隅々にまで神経が行き届いているのが伝わってきます。
戦闘シーンは、闇に乗じた活動をするテロリスト、かつ地球が舞台だから夕〜夜の戦闘になるので、暗さの中で展開されます。
一瞬わかりにくさを感じる場面もありますが、その分、光や動きの鋭さが際立ち、目が離せなくなりました。
「派手に見せる」よりも、「そこにある現実を映す」ことを選んだ映像体験に近い印象です。
また、本作は変に説明を加えず、観客に媚びない潔さも印象的でした。
字幕などで感情や状況を補足することはほとんどなく、その英断によって全体が引き締まり、完成度が高まっているように感じます。
ただし、その分、一度観ただけでは掴みきれない部分があるのも確かです。
一方で、ハサウェイの恋人との回想シーンのように、さらりと流しながらも人物の背景が自然と伝わる場面もあり、すべてを突き放しているわけではありません。
説明しないことと、伝えないことは違う――その線引きが、とても丁寧でした。
つかめない三人が作る、歪な均衡
物語の中心にあるのは、ハサウェイ、ケネス、ギギの不安定な関係です。
理想を語るしかないハサウェイ、俗物以上になりきれないケネス、そしてどこにも属さないギギ。
とくにギギの存在は、この殺伐とした世界の中で、異質なほど純粋に映りました。
彼女の魔性さは、かつてのクェスとは質の違う、人を惹きつけて離さない不思議さとして表現されていたように思います。
立場や地位を捨ててでもハサウェイを追う彼女と、組織の象徴であろうとしながら、その想いを振り切れないハサウェイ。
多くを語らず、視線や距離感で感情を伝える演出が、映像ならではの余白を生んでいました。
理想と現実の狭間で、壊れていく感覚
本作では、ハサウェイとその仲間たちの姿も丁寧に描かれています。
それぞれに役割や思惑があり、行動の一つひとつに現実の重さがにじんでいました。
一方で、全体を包む空気には、現代的なサークル気分な感じだなぁという印象も残ります。
志や理想を語りながらも、その足元はどこか定まらず、ハサウェイ自身もまた、その中途半端な立ち位置に立ち尽くしているように見えました。
理想のために壊れていくのか、壊れながら理想を掲げ続けるのか。
その問いが、最後まで静かに、しかし重く残ります。
重たい感情が残る作品ですが、その重さごと引き受けて、静かに映像に身を委ねたい夜に、そっと選びたくなる一本でした。
こんな人におすすめ
・映像の質感や空気感をじっくり味わいたい人
・勧善懲悪ではない物語に惹かれる人
・理想と現実の葛藤を描いた作品が好きな人
・ガンダムシリーズの、より大人向けの側面を楽しみたい人
