「能」と聞くと、「興味はあるけど、観に行っても寝てしまいそう…」「なんだか難しそう…」と、ちょっと敷居の高さを感じていませんか?(まさに私がそうでした)
もし答えが「はい」なら、この『幻妖能楽集』は、そんなあなたのための最高の入門書になります。
「難解」だと思っていた能の演目が、いかにドラマチックで面白い物語であるかを教えてくれる、素晴らしい1冊でした。
作品情報
タイトル:幻妖能楽集
漫画:波津彬子
監修・コラム:山内麻衣子
出版社:KADOKAWA
巻数:全1巻(完結)
発売日:2021年11月29日
あらすじ
この漫画は、奥深い能楽の演目の中から、「葵上」「道成寺」「隅田川」など、特にドラマチックな十一篇を厳選し、美しい漫画でコミカライズした作品です。1演目につき「漫画約10ページ+解説2ページ」という構成で、能の世界を分かりやすく紐解いていきます。
ネタバレなしの魅力3つのポイント
1. 1演目10分!驚くほど分かりやすい構成
この漫画の最大の魅力は、その分かりやすさ。1つの演目が「漫画10ページ+解説2ページ」でテンポよくまとめられています。漫画で物語の流れを掴み、解説で「実際の能ではどう演じられるか」を知る。この構成のおかげで、難解だと思っていた物語がスッと頭に入ってきます。
2. 物語は「嫉妬」「サスペンス」「別れ」…現代にも通じるドラマ
能が扱うのは、神話や伝説だけではありません。『源氏物語』がベースの「葵上」(嫉妬)、愛憎渦巻く「道成寺」(サスペンス)、子の死を嘆く母の「隅田川」(別れ)など、現代の私たちにも共感できる普遍的なテーマが満載。純粋な短編漫画集としても楽しめます。
3. 「実際の能ってどうなってるの?」知的好奇心が刺激される
例えば「葵上」では、病に伏す葵上自身は舞台に登場せず、「一枚の小袖」だけでその存在を表現するそうです。漫画をきっかけに「この演出、実際に見たらどうなるんだろう?」と、本物の能への興味がどんどん湧いてきます。
- 能や古典に興味があるが、何から手をつければいいか分からない人
- 『源氏物語』など、日本の古典文学が好きな人
- 隙間時間に読める、質の高い短編集を探している人
- 美しい絵柄の漫画が読みたい人
- もともと能に詳しく、専門的な解説を求めている人(入門書なので物足りない可能性があります)
※この先は、一部の演目の内容に軽く触れています。
【感想】実際の能で答え合わせがしたくなる!
11編どれも面白かったのですが、特に印象的だった演目が2つあります。
1つは「道成寺」。これは十一篇の中で最もスリルとサスペンスに満ちていて、物語も分かりやすいです。鐘が落ちるなど、舞台上の動きも派手そうなので、「もし最初に能を観るなら、絶対にこれだ!」と思いました。
もう1つは「清経」。イケメンな清経が、誰にも相談せず海に身を沈め、それを知った妻が遺品の受け取りを拒否したら、妻の枕元に恨み言を言いに来て、でも最後はちゃんと成仏した…という、なかなかの自己完結型ストーリー(笑)。私は完全に妻の視点で読んでしまったので、「(成仏できて)良かったですね(怒)」と、ついツッコミを入れてしまいました。
この清経へのモヤモヤも、実際の能で観たら、また違った印象を受けるのかもしれません。そうやって「答え合わせ」がしたくなるのも、この漫画の魅力ですね。続編にも期待したいですし、これを機に、本物の能も観に行ってみようと思います。
購読方法
全国の書店のほか、各種電子書籍ストア(Kindle, Koboなど)で購入可能です。詳細はKADOKAWAのHPよりご確認ください。
