色彩と想像力が、物語よりも先に心へ触れてくる映画でした。
作品情報
タイトル:落下の王国 4Kデジタルリマスター
監督:ターセム
脚本:ダン・ギルロイ、ニコ・ソウルタナキス、ターセム
主なキャスト:リー・ペイス、カティンカ・アンタルー ほか
上映時間:120分
原題または英題:The Fall
劇場公開日:2025年11月21日
あらすじ
時は1915年。映画の撮影中、橋から落ちて大怪我を負い、病室のベッドに横たわるスタントマンのロイは、自暴自棄になっていた。そこに現れたのは、木から落ちて腕を骨折し、入院中の5才の少女・アレクサンドリア。ロイは動けない自分に代わって、自殺するための薬を薬剤室から盗んで来させようと、思いつきの冒険物語を聞かせ始める。
それは、愛する者や誇りを失い、深い闇に落ちていた6人の勇者たちが、力を合わせて悪に立ち向かう【愛と復讐の叙事詩】―。
色彩が、物語を語りはじめる
この映画でまず強く記憶に残るのは、圧倒的な色の存在感です。
モノクロのサイレント映画から始まり、どこか時間の止まったような病院の空気を経て、画面は一気に南国の青と光へと開かれていきます。
セピア、白、そして極彩色。
場面が切り替わるたびに、感情の温度も静かに変わっていくのが印象的でした。
説明される前に、まず「見せられる」。
この映画は、映像そのものが語り部なのだと感じます。
現実と幻想が、自然に溶け合う画面
現実の出来事が、語られる物語の中で別の形へと変わっていく。
コーヒーがこぼれる瞬間が、物語の中では血の染みに変わる。
そうした変換がとても自然で、いつの間にか境界を意識しなくなっていました。
劇中劇という構造でありながら、行き来は軽やかで、むしろ心地いい。
想像力が、世界の見え方そのものを塗り替えていく感覚があります。
衣装と風景がつくる、もうひとつの世界
衣装もまた、この映画を語る大切な要素です。
強い色、独特な形。それなのに、風景と衝突しない。
むしろ、パズルのようにぴたりとはまっているのが不思議でした。
とくに印象に残ったのは、扇子のような帽子をかぶったエヴリン姫の姿。
極彩色の世界の中で、ひときわ象徴的に目に焼きつきます。
踊るように動く衣装と群像のシーンも、絵画を見ているかのようでした。
映画というメディアへの、やさしいまなざし
物語が進むにつれて、映像は次第に「映画そのもの」へと視線を向けていきます。
スクリーンの中で映し出される過去の映画たち。
子どもたちが食い入るように画面を見つめる姿。
エンドロールで流れるサイレント映画の断片も含めて、この作品には、映画を愛してきた人たちへの静かな敬意が込められているように感じました。
想像力は、人を追い詰めることもあるけれど、同時に、立ち上がるきっかけにもなり得る。
そんなことを、映像だけでそっと教えてくれる映画でした。
こんな人におすすめ
・ストーリーよりも、映像体験を大切にしたい人
・色彩や衣装、美術に心を奪われる映画が好きな人
・現実と幻想が交差する世界観に惹かれる人
・映画という表現そのものへの愛を感じたい人
・静かな余韻が残る作品を探している人
